量産へ向けた生産の流れ

生産の流れ

製造業での量産へ向けた生産の流れについて考えてみましょう。
生産の出発点は、生産物に対するニーズです。商品開発の場合、マーケッティングによる市場調査によりマーケットの嗜好を分析した後、商品のコンセプトを決め、そのコンセプトを要求仕様として生産を開始します。顧客が直接エンドユーザでない場合は、顧客よりその製品に必要な仕様が提示され、それに基づいて生産を開始します。
仕様に基づいて設計(開発、研究)に進みます。設計段階では製品の形状設計、機能設計、仕様設計、生産設計を実施し、量産への道筋を決めてゆきます。
設計完了後は生産に必要な機器、治工具の製作または準備を行います。
生産に必要な資材が準備できると、それらを用いて量産が進められるかどうかを試作によって確認します。試作の段階では設計時に決めた設計仕様が満足されているかを確認します。
これらの確認が終了すると、いよいよ量産開始となり、顧客に製品が供給されます。
このように生産開始がスムーズに行けば何も問題がないのですが、それらは非常に稀なケースです。

生産の実際

では実際はどのようになっているのでしょうか?
顧客仕様については、実際の製造経験を基にその妥当性、可能性を吟味しなければなりません。仕様はすばらしいが、物が出来ないと言う事になりかねません。ある場合には顧客を説得しその要求仕様を変更して頂かなければならない場合も有るでしょう。実は設計業務の大部分はこのやり取りに時間を費やしているのではないのでしょうか?
設計が終わった後の、試作では必ずしも一度の評価で完了する訳では有りません。各種設計仕様を満足する確認が必要で、確認が出来なかった場合、設計の変更となります。最悪の場合は顧客の要求仕様の変更にまで遡る可能性があります。また、治工具等がその修正に多くの時間が掛かる場合が有ります。このような場合一度手戻りすると、次の試作まで無駄に時間を費やす事になります。治工具の修正もお金が掛かりますし、時間もお金と同じ価値があります。
量産に入ると、顧客仕様を満足しない物(不良品)が意図せず出来るのが常です。色々な量産条件の変動が結果として歩留まりの低下、直行率の悪化等を引き起こしますが、不良品が社内で治まっていればそれほど骨身に沁みる事は有りません。しかし、一旦社外へ出ると大変な問題となります。特に人命に関わる製品ですと、その対応を誤ると企業の信用問題にもなるし、その企業の存続の問題にもなりかねません。
製造現場ではグループ活動等を通して、PDCAのサイクルによりこれらを撲滅する為の改善活動を継続しています。しかし、根本的な改善はやはり設計段階での基本設計が大切であると思います。

設計の役割

生産の流れに付いて見てきましたが、いろいろな意味で設計のウエイトが大きい事が判ります。もう少し設計業務について説明してゆきましょう。

良い設計とは

良い設計とは何でしょう。Sollinkは次のように考えます。
1)顧客仕様を吟味し、製品として満たす。
2)安定して作りやすい設計。
3)生涯コストを最小とした設計。

顧客仕様

まず顧客仕様を充分に吟味する事が大切です。「仕様はすばらしいが結果として物が出来ない」では生産が成り立ちません。また、出来るけどそんな事したら価格仕様を満たさない、等の問題も含みます。顧客に理由を付して問題となっている仕様の変更をお願いする事も設計の仕事になります。
実際の製作へ向けた仕様設計が終わると、その仕様をどのように達成するかが課題となります。形状設計、治具設計、機能設計、生産設計等を或る程度妥当性を持って実施する事が大切です。

作りやすい設計

安定して作りやすい設計とは何でしょう。勿論現場でのハンドリングや、トラブルの未然防止、治工具の保守のし易さ等は重要な問題です。加えて、物作りはその条件が製造現場の中で色々変動します。この変動の中でも決められた仕様を満たす製品が作れる事が安定して作りやすい事だと考えています。従来は工程能力として評価されていましたが、さらに前進させた考え方がロバスト設計です。ロバスト設計では変動要因、求める仕様を把握したうえで、変動要因の影響を最小限にする設計が必要になります。この為には、変動要因が品質に及ぼす影響を明確にし判断してゆかねばなりません。

最小コスト

その製品のライフが終わるまでに掛かるコストを最小にする事が重要です。例えば金型を用いる製造では、治工具の寿命や治工具のメンテナンスが大きなウエイトを占めます。また、試作での手戻りはコストも掛かるし時間も掛かる。また、量産に入った後の不良率の増加等は製品の製造原価に直接反映されます。これらの項目を設計は的確に判断し事前に設計の中に織り込んでゆく事が重要です。

設計の標準化

今まで述べてきたように、設計業務では評価し、判断する業務が大部分を占めます。このような設計の業務内容は今どのように進められているのでしょうか?
自動車関連の部品製造を例にとってみましょう。製造の標準化の為にQSやISOと言った国際標準規格に準拠した物作りが進められています。この中で評価判断が必要な項目はDR(デザインレビュー)等を開催し進める仕組みが作られていると思います。その進め方として、QSではCFTによる議論が推奨されています。CFTとはクロスファンクショナルチームの意味です。設計の要素はその都度要求が異なる事に対処するため、いろんな部署から人を集めブレーンストーミングで議論し、評価判断に漏れがないようにする事を目的としています。

設計の頭の中

全く新しい製品設計を実施する時、従来設計者はどの様に評価判断を下しているのでしょうか?
製品設計を実施するにあたり、過去の経験を思い起こし(この部分は過去トラとして纏められている場合が多い)、皆の意見を聞き(この部分も他社の過去の経験に依存している)、自分の勘を頼りに最終意思決定をする事が多いのではないでしょうか?
この様に従来の経験に頼る知識を「暗黙知」と言います。暗黙知は過去の経験に支えられた知識であり、評価判断が必要な場合大変重要な役割を担うのは間違い有りません。しかし、この知識は昔の「親方の後ろ姿を見ながら仕事を盗め」的なところが有り、なかなか他の人との共有が困難で、今では伝承するのも難しい時代になっています。
「暗黙知」に対する概念が「認識知」です。認識知では今までの勘、コツ、経験ではなく、知識を誰がみても判るデータとして蓄積します。これを用いた設計で重要となるのは、事象の予測技術と、それを判断するデータベースです。判断するデータベースに今までの暗黙知をいかに入れ込むかがポイントになります。このシステムでは評価判断について皆が見て判るシステムとなっており、情報の共有化が可能である事と、伝承が比較的容易である事が判ります。問題は事象の予測と判断用のデータベースをどの様に構築するかが問題です。

これからの設計

以上述べてきた様に、暗黙知による設計業務から認識知による設計業務へ変えてゆくことが必要となるでしょう。その為には事象の予測技術の構築と、判断データベースの構築が必要となります。
予測技術とは、或る条件の下でそれにより引き起こされる事象を予測する事を言います。条件が文言、数値化する事が出来、暗黙知を用いて予測される事象が数値化でき、また予測される事象の現実解による補正が出来れば予測技術は完成されます。しかし暗黙知の特性としての曖昧さが数値化を困難とし、データベース化を妨げる事となります。
近年コンピュータハードの進化と共に、シミュレーション技術(以下CAE)が設計ツールとして使える様になりました。CAEを用いる事により条件に対する予測される事象を数値化する事が容易となります。


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使用する主なソフト

CAPCAST(有限要素法/湯流れ/凝固/欠陥/変形)
SolidWorks(3D-CAD)
Magics(STL修正用)

パートナー使用ソフト
LSDYNA(陽解法ソフト/接触/大変形/衝突/など)
ANSYS(汎用構造解析)
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